代理物が「現実」に見え始めるとき

私たちはどれくらい、「現実そのもの」ではなく、その代わりになるものを相手に仕事をしているのでしょうか。
今の仕事の多くは、実際の対象そのものではなく、その代わりになる「代理物」を通して進められています。
お客様本人は現実そのものです。HRが行ったニーズヒアリングは代理物です。そこには、すでに誰かの解釈が入っています。アンケートも代理物です。レポートも代理物です。コミュニケーションについてのハーバードの理論だって、ある意味では代理物です。実際のコミュニケーションは、そんなにきれいでも単純でもないし、「こうすれば必ずうまくいく」なんてこともありません。
だからといって、代理物が「悪い」わけではありません。むしろ、現実そのものを目の前にしていたのに見えていなかったことを、代理物が見せてくれることもあります。
でも、代理物はあくまで代理物です。
現実にかなり近いところで仕事をして、代理物をほとんど使わなくても、たぶんいい仕事はできると思います。逆は、今の私にはかなり危なそうに見えます。
何年も前、大手のコミュニケーション研修会社で働いていた頃、ある時、自分たちは「代理物の世界」に住んでいるんだと気づきました。
でも、それまで気づけませんでした。代理物の世界が、本物のように感じられていたからです。
この気づきで、なぜ自分では素晴らしいと思っていた研修教材が、実際には全然うまくいかなかったのかも少し分かりました。
私は頭の中で教材を作っていました。実際のお客様の代わりに、たくさんの代理物を使いながら。そして、「きっとこう反応するだろう」という思い込みもかなり入っていました。
時間がたつにつれて、本当にいい仕事をするには、実際の人や状況にもっと近いところにい続ける必要があると分かってきました。そして、代理物は現実そのものではなく、その代わりだということを忘れないことも大事でした。
そこから、研修の作り方についての考えも変わりました。決められた研修アジェンダが、だんだんしっくりこなくなってきたんです。
理論や過去の経験、それに「参加者はこう反応するだろう」という頭の中のイメージを使えば、うまくいくはずのアジェンダは作れます。全部、代理物です。
でも、本物は、その場にいる実際の人たちと、その人たちがその瞬間に見せる実際の反応です。
だから、私は研修の設計を変えました。頭の中の計画より、その場の現実を優先できるくらい、ゆるく設計するようになりました。
実際には、段階どおりに進む研修よりも、頭の中にもっと大きな道具箱を持っていることのほうが大事になりました。現実が足元で変わったら、その場でアジェンダを変えて、実際に起きていることに合わせて動けるようにするためです。
みなさんの仕事では、何が「本物」で、何がその代わりの代理物なのか、私は分かりません。
でも、仕事の中で、代理物なのに本物のように扱われているものはありませんか。
それは、仕事の質や、そこで働く人のやる気にどんな影響を与えているでしょうか。




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